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融像(Flat fusion)
融像とは、医学書院の『英和・和英眼科辞典』によれば、
「左右の網膜に映った像をひとつにまとめて単一視する働き」
とあります。
要するに、一本の鉛筆を両眼で見たときに、一本の鉛筆として認識できる能力のことです。
「両眼複視」は、融像ができていない状態になります。
さて、融像を成すためには、同時視ができているという他に、幾つかの条件があります。
それらを一つ一つ克明に論じていくのは辛いので、代表的なものを二つ。
まず、
左右眼それぞれで見た(ほぼ)同じ像が「網膜対応点上」、もしくは、「ほぼ網膜対応点上」にあること。
左右の網膜には、もっとも視力の鋭敏な「黄斑部中心窩(おうはんぶちゅうしんか)」という場所があります。
通常、左右眼の中心窩は網膜対応点の関係にあり、ここが基準となって周辺部の網膜にもそれぞれ左右の対応点が存在します。
右眼のARという場所と、左眼のALという場所が網膜対応点の関係にある場合、ARとALに映っているものは「空間上の同じ場所にあるもの」と、脳は判断を下します。
細かいことを説明しだすとわけがわからなくなるでしょうから、単純かつ大雑把に表すならば、一匹のアリがいるとして、そのアリが左右の中心窩に映っていれば、アリの像は左右の網膜対応点上にあると言えます。
もし斜視があれば、右眼の中心窩にはアリが映っていても、左眼の中心窩には小石が映ってしまったりしますので、網膜対応点の関係が阻害されます。この時点で融像は不可能です。
もうひとつ。
左右の網膜像が、大きさ・色・形・コントラストなどの面で類似していること。
これを体感するには、同時視の説明で紹介したレンズ立体鏡が便利です。
レンズ立体鏡に、このようなカードを設置して覗いてみます。
左眼で見えている像
右眼で見えている像
文字の配置が違う以外、図形の形や色は同じです。
つまり、左右眼の像はほぼ類似していると脳が判断します。
このカードを両眼でのぞくと、融像に必要な他の条件が満たされていれば、こう見えます。
つまり、「多少違っているけれど、同一のものであろう」という判断のもとに、融像がなされる(単一視される)ことになります。
逆に、左右眼で見ているものが「類似している」と判断されない場合には同時視はできても融像はできません。
では実生活で「左右眼で見ているものが類似していない」ということが起こるかというと、実はよくあります。
たとえば、
・眼疾患その他のために、左右眼の視力差がある場合。
・左右眼の度数差が大きい場合(不同視)
・片眼に白内障があり、色や明るさの感じ方が左右で異なる場合
などです。
同じものを見ていたとしても、視力差があれば、左右眼でぼやけ方が違います。
不同視があれば、左右眼で大きさが違って見えることがあります。
色や明るさも含め、余りにも左右眼でのものの見え方が違うと、「これは同じものではない」と判断され、融像を拒否します。
結果として、どちらかの眼の像をシャットアウトしたり(抑制)、両眼複視のような状態になったりするのです。
つまり、左右眼での見えかたに大差がある場合、両眼で見ようとする限りは何らかの違和感を生じさせる原因ともなりますので、眼鏡調製の際には「快適に見えるように」微調整をする必要があるわけです。
なお、ここで解説している融像は、あくまでも感覚的なもの、俗にSensory fusion(感覚性融像)と言われるものです。
実際には、感覚性融像が働くように両眼の動作をコントロールする運動的な側面、Motor fusion(運動性融像)も必要です。
融像ができれば、お次は立体視です。
立体視
同時視
生理的複視
両眼複視と単眼複視